AIと自動翻訳が英語教育に与える影響と今後学校教育で重要になる事

学習指導要領の大幅な改訂とともに、学校英語教育は大きな変革の時を迎えています。

指導要領の改訂のほかに大学入試改革も同時に進められ、制度的な変革が進められています。

制度的な整備が進む一方で、現代社会を取り巻く環境の変化も英語教育にとっては無視できない影響をもたらしています。

それがAI(人工知能)と自動翻訳の発達です。

この記事では、AIと自動翻訳の発達が英語教育にもたらす影響と、それに対応するために学校教育で今後何が重要になってくるかを考察します。

自動翻訳が発達すると英語学習は不要になるか

自動翻訳の仕組みと、バイリンガルとの違い

Google翻訳の精度は年々高まり続け、話したことを即時に英語に通訳してくれる機械やスマホアプリも登場しています。

AIの発達によってその精度が人間と同じくらいになるとするならば、『子供たちが一生懸命英語を学習する意味は無くなってしまうのではないか?』そんな意見も出てきています。

しかし、『そうなることはない』という意見が専門家の中で大半を占めています。

理由は自動翻訳の仕組みにあります。

機械翻訳は、意味を理解して翻訳しているように見えて、実際には膨大な例文から最も適切であろう羅列を検索しているだけです。

その『精度』は高まっているので、海外旅行で困らないくらいの意味の伝達はできるようになってきているというわけです。

確かに、ルールの中でおびただしい数の試行を繰り返して結果を向上させていくことは、AIの最も得意とする分野です。

しかしその一方で、『AIは意味を理解して翻訳しているわけではない』ため、コミュニケーションが複雑になってくると役に立ちません。

例えば、子供が遅く帰ってきたときに母親が『何時だと思ってるの!?』と言ったとしましょう。

状況からして母親は『ごめんなさい』の返事を期待している状況なわけですが、AIはこの質問に対し、正確な時刻を答えてしまうでしょう。

人間らしいコミュニケーションは現段階ではとれるようになる見込みはまだ立っていないのです。

教育課程では、自動翻訳にできないことを学ぶ

AIがまだ正しいコミュニケーションを取れない例として最後に挙げたことは、『プラグマティック(語用論)』という学問領域の一例です。

言葉とそれを使う人との関係性を研究する学問で、簡単に言うと、『聞き手(読み手)が話し手(書き手)の伝えたいと思っていることを理解できるのはどうしてか?』を研究しています。

もちろん、この『プラグマティック(語用論)』を中学や高校のカリキュラムに組み込むべきとは思っていません。

しかし、自動翻訳の精度が高まっている中で、自動翻訳がすでにできることを目標に英語学習をしても不毛ではないでしょうか。

どうせなら自動翻訳ができないことを英語学習のゴールにしたほうが建設的ですよね。

大学入試改革に見られる中等教育への要求

英語力のベースとなるものが英単語と英文法であることは、これからも変わることはないでしょう。

しかし、それを暗記することが大学合格への近道である時代は終わりつつあるようです。

AIや自動翻訳の発達を見据え、大学側が入試で求める「受験生の学力の性質」も変わってきているからです。

単語や文法を分かっていることは前提として、その上で「情報を受容・解釈する能力」が重視されるようになっています。

単語や文法はAIでも対応できてしまうことが分かってきていますので、それに負けない人材を大学は求めているということです。

大学入試センターが作っている新しい英語の入試では、今までのように大量の英文を読ませて書いてあることを答えさせる問題ではなく、場面に応じた読み方や、情報の性質を理解することが要求される問題も出てきています。

きっと徐々に、中学校・高校における英語の授業も変わってくるでしょう。

これからのすべての学力で求められる「読解力」

では、AIや自動翻訳に負けない英語力とはどのようなものなのでしょうか?

そのベースになるものは「読解力」です。

これは聞いて理解することも含みますが、書いてあることや言われたことを的確に素早く解釈する力と言ってしまえば簡単です。

しかし実際には相手がいて、相手が何を伝えようとしているのか、言葉の使い回しやイントネーション、表情、場面などいろいろな手がかりに目を配ります。

特にコンテクスト(文脈)の理解はコミュニケーションには必要不可欠です。

また、相手の文化的背景も分かってないと正しいコミュニケーションができません。

これらの能力をまとめて「読解力」とこの記事では呼びますが、これがこれから必要になってくる資質です。

実際には中等教育より前の教育も重視されるべき

これらの能力、つまりAIが対応できない能力ですが、これを身につけさせることができるように今回学習指導要領が大幅に改訂されました。

大学入試でも、従来の暗記力ではなく、読解力を測ることが重視されることにんなってくるでしょう。

悩ましいのは、この能力は中学校と高校の授業と入試が変わるだけでは、なかなか身につきにくいことです。

特にコンテクストを読む力や相手や話題に対する背景知識などは幼少期からの積み重ねがものを言う力であり、短期的に受験勉強で詰め込んでどうにかできる能力ではありません。

そうした能力を身につけるためには、きちんと小さい頃からの読書習慣に加え、豊かなコミュニケーション経験、周りの物に興味を示し分析するような教育が重要であり、AIには代替しにくい能力として価値が高まるに違いありません。

まとめ

この記事ではAIと自動翻訳の発達が英語教育にもたらす影響と、それに対応するために教育上何が重要になってくるか考えてきました。

英語学習の基本は単語や文法ですが、一見関係なさそうに見える小さいころからいろいろなものを見て聞いて感じてみる作業も重要になってきます。

AIや自動翻訳にできないことは何か」に着眼しながら、子供の英語教育に取り組んで行くと良いですね。

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