ドラえもんの『ほんやくコンニャク』には及ばないとはいえ、『ポケトークS』や『eTalk5』等の音声自動翻訳デバイスが登場し、英語ができなくても外国人と容易にコミュニケーションが取れる時代がすぐそこまで近づいてきています。
とすると、「もう英語を勉強する意味はない?」と考える方も多く出てくるでしょう。
「子供に一生懸命英語を習得させるために支払っているお金や時間が無駄になってしまうのでは?」と不安に思う方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、自動翻訳が今後更に精度を向上させていくことを踏まえた上で、子供にどの程度英語を習得させるのが良いのか、「目標とすべき英語力の水準」について考察した結果をご紹介します。
自動翻訳の精度はどこまで上がってきているのか?
Google翻訳に英語を翻訳させてみると、その精度がなかなか高く、驚かされます。
一昔前まではトンチンカンな和訳でネタにされていた時代もありますが、近年その制度は飛躍的にあがってきています。
機会翻訳の精度が急速に上がっているのは、AI(人工知能)の発達によるものです。
機械翻訳のデータベースには、膨大な数の英語や日本語の例文がビックデータとして溜め込まれており、その中から最も適切であろうと思われる組み合わせを統計から検索して抽出することにより、自然な日本語としての和訳が可能になっているとのことです。
昔は文法ルールに基づいて単語を和訳して文章翻訳されていたため、非常に堅い表現しか対応できず、主語が省略されたりする口語の和訳・英訳の精度は非常に悪いものでした。
しかしビッグデータをAIが分析する形の自動翻訳が発達したことで、日常会話の翻訳対応力が急激に向上しました。
今この瞬間にもAIはデータを集め続けており、24時間休むことなく学習し続けているので、刻々とその精度は進歩を遂げています。
すでに、『ポケトークS』や『eTalk5』等の自動翻訳デバイスがあれば、外国人に道を教えてあげたり、海外旅行でホテルやレストランで想定されるシチュエーションでのコミュニケーションには、困ることが少なくなってきています。
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では、やはり英語を習得する必要はなくなり、英語学習に多大なお金や時間をかけることは無駄になってしまうのでしょうか?
AIや自動翻訳が発達しても英語学習が無駄にならないワケとは
私は、今後もしばらく長い間は、外国語を学ぶ意味はなくならないと考えています。
その理由は、「豊かなコミュニケーション」を自動翻訳では当分実現できないと見込まれているためです。
言葉は「意味」を運ぶ乗り物です。
人は意味を理解した上で言葉を操りますが、AIの自動翻訳は意味を理解して翻訳しているわけではありません。
上述の通り、自動翻訳は意味を理解して翻訳しているのではなく、データベースから統計的に正しそうな情報を返しているだけです。
そのため、ジョーダンや比喩など、人間ならではの豊かなコミュニケーションを自動翻訳デバイスでは適切に訳すことができません。
決まったシチュエーションでの決まりきったやり取りであれば、データベースに蓄積された例文から翻訳することができますが、決まりきったシチュエーションでの決まりきった受け答えは、表面上の薄っぺらい、人間関係や信頼関係を構築するには役に立つとは言いにくい代物です。
自動翻訳デバイスのおかげで、最低限の意思疎通はできるようになりましたが、人としてのコミュニケーションに匹敵するレベルには、今の所ありません。
また、人は自分と同じ言葉を話す人を好む性質があります。
例えば、東京で初めて会った人でも、方言から同郷の人と分かれば、それだけで打ち解けることができますし、外国人がつたない日本語でも一生懸命日本で説明して困っている状況を話してくれたら、思わず親身に助けてあげたくなるものです。
そういった、感情を揺り動かす付加価値が機械翻訳にはまだ当分期待できないのです。
ただし、AIが単なるデータの変換ではなく、「意味を理解し始めたとき」には革命的な技術革新が起きるでしょう。
AIが言葉の「意味」を理解し、自律的に作動する超越的な機械的知性となり、人類の理解や予測を超えてAIが働き出す時点は「シンギュラリティ(=技術的特異点)」と呼ばれています。
そして幸か不幸か、このシンギュラリティが起こる見込みは、今の所立っていません(2045年ごろに到来するのではという諸説はあります)。
使えないよりは使える方が良い
そもそも論になってしまいますが、英語を話せないよりは話せる方が良いということもあります。
自動翻訳の機械に頼りながらコミュニケーションを取る人よりも、自分自信の言葉でそれができる方がかっこいいですし、教養があると思われます。
例えば、インターネットでなんでも検索できるようになった現代社会においては、分からないことは調べればすぐに答えを引き出せます。
ではだからといって何も知識を持っていなくて良いかというとそうではないです。
頭の中が空っぽだといちいちスマホでググって会話することになりますが、きちんと知識を蓄えている人であればテンポよく会話が弾みます。
知識を習得している人のほうが、魅力的であることと同様に、機械翻訳を介さずに英語を話せる人のほうが魅力的に映ります。
しかも、機械に頼っていると機械がなくなったときに何もできなくなります。
一方、身につけた教養はどんな時にも失われない財産です。
AIによる機械翻訳が登場したからといって、英語学習は無駄になることは決してないでしょう。
人として豊かに生きる上でも、英語と学ぶことには大きな意義があるので、AIを気にすることなく、子供には英語を教えるのが良いと私は考えます。
語学学習に加えて学ぶべき能力とは
機械翻訳は日夜向上を続け、人間が外国語を習得する時間に比べたらずっと速いスピードで発達しています。
そのうちビジネスでも使えるようになるでしょう。
単語や簡単な文章を単に翻訳する、単純な翻訳業務は、きっとAIに取って代わられてしまうに違いありません。
そのため子供には、AIに負けない能力を身に付けさせる必要があります。
文科省はAIに負けない人材を育成するために学習指導要領を改定し、英語の授業では「読み書き」だけではなく「思考力・判断力・表現力」を伸長させるカリキュラムに変わってきています。
これは、自動翻訳では対応できない能力を伸ばすことを目的としているからです。
そうゆう意味では、「英語そのものを学ぶ」ということも重要ですが、それよりも英語をツールとして活用して何ができるようになるか、の方がより一層重要になります。
日英の語学ができる単なるバイリンガルでは、AIとの競争に打ち勝つことは難しいかもしれません。
「単に意思疎通ができる」英語力ではなく、「文脈や感情の機微を読み取り、微妙なニュアンスまでをしっかり理解し伝えることができる英語力」が求められることになるので、これまでよりもより一層水準の高い英語力が必要となると言えるでしょう。
まとめ
自動翻訳が発達していく中、表面的な英語力の価値は相対的に低くなってしまうでしょう。
そのため、「英語は機械翻訳に任せればいいや」と考え、英語教育に力を入れなくなる家庭もある程度出てくるでしょうから、英語ができる人は相対的に希少価値が高まる可能性もあります。
一方で、「人間的なコミュニケーションの重要性」が今後ますます増してくるので、英語を学ばせるのであれば、AI翻訳が対応できないくらいの高い水準の英語力が求められる時代になってくるでしょう。
「子供たちが大人になる頃、どんな能力が必要になってくるか?」をよく検討した上で、未来に必要とされる能力を身につけさせてあげたいですね。
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