小学生の英語学習における『聞き流し勉強』の効果と是非

2018年の新小学校学習指導要領(平成 29 年 3 月告示)により,小学校3年生から「外国語活動」,小学校5年生から「外国語」が科目として設定され,小学校からの英語教育が日本でも本格化してきました。

しかし,小学校3年生は8歳から9歳の子供になりますが,そこから英語を学習し始めたのではまだ遅いという意見が一定数あります。

小学校低学年段階の子供の脳は柔軟で,その時期に英語学習をすれば大人よりずっと習得がしやすいという理由から,スピードラーニングに代表される英語を「聞き流す」ことで英語を習得させようとする教育法も注目されています。

これは英語学習塾や英会話教室に通わせることなどよりも,経済的・時間的な側面から見ても負担が少ないこともその理由の一つとして挙げられるでしょう。

この記事では,小学校低学年段階の子供に対する英語の「聞き流し」教育の効果と是非について考えていきたいと思います。

ネイティブが英語を習得するのと同じ成長は期待できない

私たちは日本語を「聞き流す」だけで使えるようになったか

英語をBGMのように聞き流すことで,英語ネイティブの赤ちゃんが自然に英語を習得していったのと同じように,自分の子供にも英語を習得してほしいと考える保護者の方々は少なくないように思われます。

私たち日本人が日本語をどうやって使えるようになったかということはなかなか考える機会はないと思いますが,おそらく周りの大人の話す言葉をぼーっとしながら聞き流していただけではないと思います。

周りの大人が言葉を使ってコミュニケーションをとっているのを見て,自分も言葉を理解したいし,自分を伝えるためには理解しないといけないと本能的に感じたからではないでしょうか。

外国の赤ちゃんも同様で,聞いてみて,使ってみることを繰り返しながら長い時間をかけて英語を習得するのだと思われます。

そういった前提を考えずに,「子供の脳は柔らかいから聞くだけでいろいろと吸収してくれるはず!」と期待しすぎるのは禁物と考えたほうが良いでしょう。

英語の音に慣れることにおいては有効な面も期待できる

筆者は洋楽が好きでよく聞いているのですが,正直歌詞を確認しないと何を歌っているのか正確にはわかりません。

日本の歌は聞くだけで割と口ずさめるようになると思いますが,洋楽だとなかなかそうはいかないのではないかと思います。

これは子供にとっても同様で,言語の重要な側面の一つは「意味」であり,意味を持った言葉はすんなり理解して口に出せますが,意味が分からない音の羅列は口に出して再生することが難しいです。

しかし,子供が大人より優れている能力として「音」を聞きわける能力が挙げられます。

大人になると生活に必要な音は脳が網羅しており,それ以外の音は特に意味を持った音として聞くことをしなくなるようです。

一方で子供の脳はまだ何が必要な音で何が不必要な音か判断しかねている段階ですので,英語にはあって日本語には無い音を聞き分ける能力は大人より優れていると言われています。

母語の大枠を習得するときが,個人差がありますが,7歳くらいまでと言われていますので,その時までに英語の音を理解することには大きな意味があると言えるでしょう。

「聞き流し」教育が最も効果的な英語学習法であるとは言えない

小学校低学年までの期間は子供に英語の音を聞き分ける能力をつけさせるのに適した時期であるのであれば,「聞き流し」教育にも大きな意味があると思われるかもしれません。

しかし,上で述べたように,「聞き流す」だけでは得られるものは残念ながら大きくありません。

「理解したい」,「理解しなければならない」という心から出てくる思いがなければ,なかなか習得はできません。

おすすめすることは音声をBGMのように流すのではなく,映像メディアとともに見せることです。

ディズニーなどの英語アニメをテレビで流しておくと,何を言っているか分からなくても,子供は興味をもってテレビの前に座るのではないでしょうか。

こうなると「聞き流す」だけではなくなり,英語を子供が理解したいと思う意味をともなった音として子供の耳に入れることができます。

小学校低学年児童への英語「聞き流し教育」の是非

英語の音に母語能力が未完成のうちに慣れさせることにおいては,英語をBGMのように聞き流すことに意味があるかもしれません。

しかし,いろいろなものに興味を持つ時期の小学校低学年の子供は,いろいろなものを五感を駆使してそれが何か確かめながら知識を身につけていく時期でもあります。

意味の分からない音の羅列を聞き流すためにじっと座ることが果たして子供にとって楽しいものかどうか,筆者は疑問に思います。

低年齢の英語教育において最も重要なことは英語は苦痛を伴う勉強ではないという意識を身につけさせることでもあります。

聞き流し教育がぴったりフィットする子供はなかなかいないのではないかというのが筆者の率直な思いです。

まとめ

小学校低学年の子供に英語を「聞き流す」方法で英語を習得させようとすることについて筆者が考えることをご紹介しました。

「聞き流し」での英語学習は経済的にも時間的にも負担の少ない教育法に見えますが,効果を実感するに至るにはなかなか時間がかかる教育法でもあると考えます。

低年齢の子供の脳は楽しいと思ったことの吸収力において大人の想像をはるかに超えてきます。

何か子供が「楽しい」「知りたい」と思ったことと英語を関連付けることができると,子供の英語学習は順調に進むのではないでしょうか。

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