英語教育開始年齢の早期化の流れは,一部の意識の高い保護者たちの間では小学校に外国語活動が導入される以前から一般化していましたが,公教育においても低年齢から英語を授業で教える動きが進んでいます。
今の大人世代の国民は,中学校から英語の授業を受け始めた人がほとんどですが,これが大きく変わります。
すでに2018年から小学生は5年生から「外国語活動」という授業の中で英語を学んでおり,2020年の学習指導要領ではその外国語活動が小学3年生からに前倒しされます。
この記事では学習指導要領をまとめながら,外国語活動の趣旨と目的を見ていきます。
3年生からに前倒しされる小学校「外国語活動」の趣旨
とりわけ今回の学習指導要領の改訂は小・中・高と続く英語教育全体の改革と合わせ,『高大接続改革』と呼ばれる,大学入試の英語のこれまでのありかたを一変させる大きな改革となっています。
2018年の指導要領改訂においては,小・中・高等学校で一貫した外国語教育を実施することにより,グローバル化する社会に適応できる人材の育成を目標とし,実際に小学校に英語教育が導入されました。
またそれに付随する4技能の指導が充実されてきたわけですが,結果,以下のような課題が残りました。
①音声中心で学んだことが,中学校の段階で音声から文字への学習に円滑に接続されていない
②日本語と英語の音声の違いや英語の発音と綴りの関係,文構造の学習において課題がある
③高学年は,児童の抽象的な思考力が高まる段階であり,より体系的な学習が求められる
出典:小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説『外国語活動・外国語編』
また,学年が上がるにつれて学習意欲に課題が生じることや,①に関連して校種間の接続がうまくいかず,それまで学んだことがリセットされた状態で中学校の英語の授業が始まってしまう,ということなども挙げられています。
そこで,それらの課題への対策として外国語活動を小学校高学年から中学年に前倒しすることになりました。
その趣旨としては,
小学校中学年から外国語活動を導入し,「聞くこと」,「話すこと」を中心とした活動を通じて外国語に慣れ親しみ外国語学習への動機付けを高めた上で,高学年から発達の段階に応じて段階的に文字を「読むこと」,「書くこと」を加えて総合的・系統的に扱う教科学習を行うとともに,中学校への接続を図ることを重視することとしている。
出典:小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説『外国語活動・外国語編』
としています。
今までの小学校高学年の外国語活動では「読む」「書く」の学習はなされず,英語ゲームなどで遊ぶように英語を学んできた子供が,中学校ではそのことを知らない先生にいきなり教科書を使ってアルファベットなどの文字体系を教えられていたような状況でした。
そこで遊びのような英語に慣れ親しむ学習を中学年に前倒しし,小学校高学年である程度文字や文法を学び,それをベースに中学校の先生が授業を始められるようにしたということですね。
小学校外国語活動の目標とその内容
実際に小学校中学年に前倒しされる小学校外国語活動の目標は以下の通りです。
外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ,外国語による聞くこと,話すことの言語活動を通して,コミュニケーションを図る素地となる資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1) 外国語を通して,言語や文化について体験的に理解を深め,日本語と外国語との音声の違い等に気付くとともに,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しむようにする。
(2) 身近で簡単な事柄について,外国語で聞いたり話したりして自分の考えや気持ちなどを伝え合う力の素地を養う。
(3) 外国語を通して,言語やその背景にある文化に対する理解を深め,相手に配慮しながら,主体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を養う。
出典:小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説『外国語活動・外国語編』
「コミュニケーションを図る素地となる資質・能力」の育成が外国語活動の目標のようです。
その詳細がその下の(1)~(3)に述べられています。
まとめると,(1)「言語や文化についての体験的理解」、(2)「外国語への慣れ親しみ」、(3)「コミュニケーションへの積極性」となりますが,これらがコミュニケーション能力の素地となることを期待しているわけです。
外国語活動では「読む」「書く」などのための文字を教えることはありません。
実際の授業としては,カードなどを使ったゲーム的な活動を通して,耳と口から英語に触れ,それと同時に異文化を知る第一歩を踏み出すような活動がなされます。
この段階では文法などはもちろん教えていませんので,「質問をする時は最後が上がるようなイントネーションになるんだな」とか「自分が住む街にもけっこう英語があふれているんだな」くらいの体験的な気づきをもたらすような活動です。
そうした活動から,「もっと知りたい」「伝え合うのは楽しい」というような態度を養成し,それが高学年,中学校へとつながるコミュニケーション能力の素地となります。
まとめ
小学校の中学年で行われる外国語活動は,単語や発音などをバリバリと英才教育するものではありません。
むしろ,今まで小学校高学年と中学校の英語の授業の間のギャップが大きくうまく接続できていなかったという課題に対して,前倒しすることでより滑らかに中学校,高校,大学入試へとつないでいくことを趣旨としたものになります。
英語教育開始年齢が早期化することで,これからの子供は全員英語が話せるようになることは難しいと思いますが,異言語,異文化への体験的な気づきを通して子どもたちの英語に向かう態度がよりポジティブになり、暗記科目と言って毛嫌いする子供が減ることは期待できるかもしれません。